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東京地方裁判所 平成8年(ワ)7133号 判決 1998年3月20日

主文

一  甲事件について

被告は、原告に対し、一四四万円及びこれに対する昭和五三年五月二四日から平成三年五月二三日まで年一割五分の割合による、同月二四日から支払済みまで年三割の割合による金員を支払え。

二  乙事件について

被告は、原告に対し、八九一万円及びこれに対する昭和五三年三月二五日から昭和六三年四月二四日まで年一割五分の割合による、同月二五日から支払済みまで年三割の割合による金員を支払え。

三  甲事件・乙事件共通

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  甲事件について

主文第一項と同旨。

二  乙事件について

主文第二項と同旨。

第二  事案の概要

本件甲事件は、原告が、被告に、昭和五三年五月二三日、一五〇万円を貸し渡した旨主張し、被告に対し、貸金残元金一四四万円及びこれに対する昭和五三年五月二四日から平成三年五月二三日まで年一割五分の割合による利息、同月二四日から支払い済みまで年三割の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

本件乙事件は、原告が、被告を連帯債務者として、乙山太郎(以下「太郎」という。)に、昭和五三年三月二四日、九五〇万円を貸し渡した旨主張し、被告に対し、貸金残元金八九一万円及びこれに対する昭和五三年三月二五日から昭和六三年四月二四日まで年一割五分の割合による利息、同月二五日から支払済みまで年三割の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

これに対し、被告は、甲事件・乙事件とも原告の主張する金員の貸渡しを否認し、抗弁として、時効による貸金債権の消滅、裁判上の和解による貸金債権の消滅を主張している。

一  請求原因

1  甲事件について

原告は、被告に対し、昭和五三年五月二三日、次の約定で、一五〇万円を貸し渡した(以下、「本件消費貸借契約一」という。))。

(一) 利息 月二分

(二) 違約損害金 利息制限法最高の割合の金員

(三) 弁済方法 昭和五三年六月より自由返済として毎月二三日までに利息分以上を支払うよう努力し、昭和五六年五月二三日までに完済するよう努力する。残金が右のとおりに全額完済できなくなる場合には、その残金の支払期限を猶予し、自動的に延長して、昭和六一年五月二三日とし、なお完済できなくなる場合は、更にその後五年間に限り自動的に支払を猶予する。

(四) 最終弁済期 昭和六六年(平成三年)五月二三日

2  乙事件について

原告は、被告を連帯債務者として、太郎に対し、昭和五三年三月二四日、次の約定で、九五〇万円を貸し渡した(以下、「本件消費貸借契約二」という。))。

(一) 利息 月一分五厘

(二) 違約損害金 利息制限法最高の割合の金員

(三) 弁済方法 昭和五三年四月より自由返済として毎月二四日までに利息分以上を支払うよう努力し、昭和五三年四月二四日までに完済するよう努力する。残金が右のとおりに全額完済できなくなる場合には、その残金の支払期限を猶予し、自動的に延長して、昭和五八年四月二四日とし、なお完済できなくなる場合は、更にその後五年間に限り自動的に支払を猶予する。

(四) 最終弁済期 昭和六三年四月二四日

二  争点

(甲事件について)

1 原告は、被告に対し、昭和五三年五月二三日、一五〇万円を交付したか否か(本件消費貸借契約一)。

(原告の主張-請求原因)

前記「一 請求原因1」記載のとおり。

(被告の主張)

(一) 原告の主張する請求原因事実は否認する。金銭借用証書(甲一)に基づいて、金銭が交付されたことはない。

(二) 甲第三九号証の金銭借用証書には、借主欄の「乙山太郎」の住所地に、「大阪市M区A三-二十-三 日宝ラッキービル三F」と記載されているが、右借用証書の日付けである昭和五三年三月二四日には、右住居表示は存在しない。

(三) 被告名義の書類は、昭和五三年に、大阪市M区B三丁目二〇番地の三の日宝ラッキービルで「日新ローンズ」という名称で金融業を営んでいた「乙山某」から、体裁を整えるだけであると言われ、同じビルの中にあった会社に勤務していて、乙山とも親しくしていた被告が、特に警戒もしないで、署名してしまったものである。

2 本件消費貸借契約一による貸金債権は、時効によって消滅したか否か。

(被告の主張-予備的抗弁1、消滅時効の抗弁1)

(一) 本件消費貸借契約一には、昭和五六年五月二三日の弁済期までに支払ができない場合には、その残金の支払日を猶予し、自動的に延長して、右弁済期より五年後を支払日として支払うように努力し、なおかつ支払ができない場合には、更にその後五年間支払を猶予し延長した期限が最終弁済期限に自動的になる旨の特約があるが(甲一、三項)は、右特約は、時効期間を伸長する合意であって、民法一四六条の趣旨に反し、無効である。

(二) 本件消費貸借契約一による貸金債権の弁済期は、昭和五六年五月二三日であるところ、その翌日である同月二四日から一〇年が経過した。

(三) 被告は、右消滅時効を援用する。

(原告の主張)

(一) 本件消費貸借契約一における弁済方法についての特約は、契約の自由の原則に基づき、支払努力行為日を猶予して、延期、延長し、新しい弁済期限を定めたものと認められるから、有効である。

(二) 本件消費貸借契約一による貸金債権の弁済期は、平成三年五月二三日である。

3 本件消費貸借契約一による貸金債権は、時効によって消滅したか否か。

(被告の主張-予備的抗弁2、消滅時効の抗弁2)

(一) 本件消費貸借契約一においては、支払猶予期間中であっても、債務者には一か月分の利息相当金の支払義務があり(甲一、四項)、その支払を五か月分以上遅滞したときには、債権者は、支払命令の申立て又は訴訟の提起をすることができるのであるから(甲一、六項)、債務者が右五か月分の利息相当金の支払を怠ったときには、その時点が、本件消費貸借契約一による貸金債権の権利の行使ができるときになる。

(二) 被告は、昭和五六年五月二三日から、五か月分の利息相当金の支払を遅滞したので、本件消費貸借契約一による貸金債権の弁済期は、同年一〇月二三日となるところ、その翌日である同月二四日から一〇年が経過した。

(三) 被告は、右消滅時効を援用する。

(原告の主張)

前記争点2の原告の主張(一)と同旨。

4 本件消費貸借契約一による貸金債権は、裁判上の和解によって消滅したか否か。

(被告の主張-予備的抗弁3)

(一) 原告が代表者である日本百貨通信販売株式会社(以下「日本百貨通信販売」という。)は、被告との間で、平成元年四月三日、徳島簡易裁判所で、次の内容の裁判上の和解をした(以下「本件裁判上の和解」という。)。

(1) 被告は、日本百貨通信販売に対し、借受金債務として三〇万円の支払義務があることを認める。

(2) 被告は、日本百貨通信販売に対し、平成六年四月三日限り、前項の金員を支払う。

(3) 日本百貨通信販売は、その余の請求を放棄する。

(4) 日本百貨通信販売と被告は、当事者間に、本日現在、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。

(5) 訴訟費用は各自の負担とする。

(二) 本件においては、日本百貨通信販売と原告の同一性を認めるべきであるから、本件消費貸借契約一による貸金債権は、本件裁判上の和解の精算条項によって、消滅した。

(原告の主張)

(一) 右被告の主張(一)の事実は認める。

(二) 右被告の主張(二)は争う。

(乙事件について)

5 原告は、太郎に対し、昭和五三年三月二四日、九五〇万円を交付したか否か(本件消費貸借契約二)。

(原告の主張-請求原因)

前記「一 請求原因2」記載のとおり。

(被告の主張)

(一) 原告の主張する請求原因事実は否認する。金銭借用証書(甲三九)に基づいて、金銭が交付されたことはない。

(二) 前記争点1の被告の主張(二)及び(三)と同旨。

6 本件消費貸借契約二による貸金債権は、時効によって消滅したか否か。

(被告の主張-予備的抗弁1、消滅時効の抗弁1)

(一) 本件消費貸借契約二には、昭和五三年四月二四日の弁済期までに支払ができない場合には、その残金の支払日を猶予し、自動的に延長して、右弁済期より五年後を支払日として支払うように努力し、なおかつ支払ができない場合には、更にその後五年間支払を猶予し延長した期限が最終弁済期限に自動的になる旨の特約があるが(甲三九、三項)、右特約は、時効期間を伸長する合意であって、民法一四六条の趣旨に反し、無効である。

(二) 本件消費貸借契約二による貸金債権の弁済期は、昭和五三年四月二四日であるところ、その翌日である同月二五日から一〇年が経過した。

(三) 被告は、右消滅時効を援用する。

(原告の主張)

(一) 前記争点2の原告の主張(一)と同旨(ただし、「本件消費貸借契約一」とあるのは、「本件消費貸借契約二」である。)。

(二) 本件消費貸借契約二による貸金債権の弁済期は、昭和六三年四月二四日である。

7 本件消費貸借契約二による貸金債権は、裁判上の和解によって消滅したか否か。

(被告の主張-予備的抗弁2)

前記争点4の被告の主張と同旨(ただし、「本件消費貸借契約一」とあるのは、「本件消費貸借契約二」である。)。

(原告の主張)

前記争点4の原告の主張と同旨。

第三  争点に対する判断

一  争点1(本件消費貸借契約一)及び同5(本件消費貸借契約二)について

1  本件においては、本件消費貸借契約一について、甲第一号証(金銭借用証書)及び甲第二号証(領収証書)が、また、本件消費貸借契約二について、甲第三九号証(金銭借用証書)及び甲第四〇号証(領収証書)が、それぞれ存在し、右各書証の被告名義(なお、「丙山」は被告の当時の姓である。)の各署名が被告の自署によるものであること及び被告名下の印影が被告の印章によるものであることは、いずれも当事者間に争いがない。そうすると、右各書証は、反証がない限り、いずれも真正に成立したものと推定されるので、本件において、反証があるといえるか否かについて、検討する。

2(一)  甲第一号証は、上部に、金銭借用証書との標題がある、B四版縦、横書きの書面である。標題の下の、<1> 借入金額欄には、一五〇万円と、手書きによる記載があり、次いで、<2> 「上記金額を、下記の事項を承認して、日常の家事費用に使用するため借主は貸主杉山治夫殿より借入れて、本書と引替えに貴殿より上記金員を現金で正に受取り領収致しました。」との記載と、書面の下部まで、<3> 利率や支払期日などが手書きで書き込まれているほかは不動文字による契約条項の記載があり、書面の下部の、<4> 日付け欄に、昭和五三年五月二三日、との、数字は手書きによる記載が、その下の、<5> 借主欄に、被告の住所、氏名の記載と、被告の印影があって、最後に、<6> あて先として、日本百貨通信販売株式会社内貸主杉山治夫殿との記載がある。

また、甲第二号証は、領収証書との標題のある、横書きの書面である、標題の下に、<1> あて先として、日本百貨通信販売株式会社内(貸主)杉山治夫殿との記載と、<2> 日付け欄に、昭和五三年五月二三日、との、数字は手書きによる記載があり、その下の、<3> 金額欄には、一五〇万円と、いずれも手書きによる記載があり、「但し借受人上記のお金を正に領収いたしました。」との記載に続いて、下部の、<4> 借主欄に、被告の氏名の記載と、被告の印影がある。

(二)  甲第三九号証は、右側に、金銭借用証書との標題がある、B四版横、縦書きの書面である。標題の左の、<1> 借入金額欄には、九五〇万円と、手書きによる記載があり、次いで、<2> 「右記金額を、左記の事項を承認して、日常の家事費用に使用するため借主は貸主杉山治夫殿より借入れて、本書と引替えに貴殿より右記金員を現金で正に受取り領収致しました。」との記載と、書面の左側まで、<3> 利率や支払期日などが手書きで書き込まれているほかは不動文字による契約条項の記載があり、書面の左側の、<4> 日付け欄に、昭和五三年三月二四日、との、数字は手書きによる記載が、その左の、<5> 借主欄に、いずれも手書きによる、「住所 大阪市M区A三-二十-三 日宝ラッキービル三F」、「氏名 乙山太郎」、「(〇六)<略>」との記載と、「乙山」の印影が、<6> 連帯債務者欄に、被告の住所、氏名の記載と、被告の印影があって、最後に、<7> あて先として、日本百貨通信販売株式会社内貸主杉山治夫殿との記載がある。

また、甲第四〇号証は、領収証書との標題のある、縦書きの書面である。標題の左の、<1> 金額欄には、九五〇万円と、手書きによる記載と、「但し借受人右記のお金を正に領収いたしました。」との記載があり、次いで、<2> 日付け欄に、昭和五三年三月二四日、との、数字は手書きによる記載があり、その左の、<3> 借主欄に、太郎の氏名の記載と、「乙山」の印影が、<4> 連帯債務者欄に、被告の氏名と、被告の印影があって、最後に、<5> あて先として、日本百貨通信販売株式会社内貸主杉山治夫殿との記載がある。

3  これらの書面の作成や記載内容について、被告本人尋問の結果中には、(一) 名前は分からないが、乙山という男に頼まれて、何通かの書類に署名した、(二) 甲第一号証(金銭借用証書)に住所と氏名を書いて印鑑を押したが、借入金額や不動文字以外の数字は、いずれも空欄であった、(三) 甲第二号証(領収証書)に氏名を書いて印鑑を押したが、金額と日付けは空欄であった、(四) 甲第三九号証(金銭借用証書)に住所と氏名を書いて印鑑を押したが、借入金額や借主欄の住所、氏名などの記載はなかった、(五) 甲第四〇号証(領収証書)に氏名を書いて印鑑を押したが、金額と借主は空欄であった、(六) 乙山は、書面上だけでいいから金銭を借りたことにしてほしいと言った、(七) 実際に金銭の受渡しがあったことは知らない、(八) 原告と初めて会ったのは、徳島簡易裁判所での和解の時である、などと供述する部分があり、乙第八号証(被告の陳述書)にも同様の陳述部分がある。

しかしながら、被告本人尋問の結果中及び乙第八号証中には、他方で、(九) 被告は、昭和二四年に大阪市で生まれ、高校卒業後、昭和四二年ころから、大阪市M区B三丁目二〇番地の三所在の日宝ラッキービルの五階に事務所を有する旅行代理店に勤務していた、(一〇) 被告は、昭和五二年ころ、同じ日宝ラッキービルの三階に事務所を有していた乙山と親しくなり、昼食を共にしたり、月に数回飲みに行くようになった、(一一) 乙山は、日宝ラッキービル三階で、サラ金業を営んでいた、(一二) 乙山は、被告に対し、昭和五三年四月ころ、金主から金残を引っ張り出したい、書面上だけ金銭を借りたことにしてほしい、迷惑はかけない、などと頼んだ、(一三) 被告は、乙山の頼みを受けて、乙山の事務所で、借用書のような書面に、署名、押印し、乙山に交付した、(一四) 被告は、その後、約一か月にわたり、乙山の事務所で、五、六枚の書類に署名をし、乙山に交付した、(一五) 被告は、乙山に対し、印鑑登録証明書を交付した、(一六) 乙山の名前は記憶にない、などと供述、陳述する部分があり、右程度の付き合いであった被告が、サラ金業を営む乙山の頼みを受けて、あえて借用証のような書面に署名、押印して、使途なども全く確認しないままに乙山に交付することは、甲第一、第二、第三九、第四〇号証が、手書き部分を除いても、右2のとおりの体裁、内容となっていることをも勘案すると、極めて不自然であると評価せざるを得ないから、右(一)ないし(八)の被告の供述、陳述は、甲第一、第二、第三九、第四〇号証の成立についての反証として採用することができない。

4  さらに、被告は、甲第三九号証には、「乙山太郎」の住所として、「大阪市M区A三-二十-三 日宝ラッキービル三F」と記載されているが、右借用証書の日付けである昭和五三年三月二四日には、右住居表示は存在しない旨指摘し、証拠<略>によれば、(一) 日宝ラッキービルの所在する住所の住居表示は、大阪市M区B三丁目二〇番地の三であったところ、昭和五七年二月一日、大阪市M区A三丁目一番一六号となったこと、(二) 昭和五七年二月一日実施された住居表示によると、A三丁目には、一二街区までしかないこと、(三) 日宝ラッキービルの所有者である日宝土地建物株式会社(以下「日宝土地建物」という。)は、日宝ラッキービル三階について、太郎を賃借人とする賃貸借契約を締結していないことが認められるが、他方、証拠<略>によれば、(四) 日宝土地建物は、昭和五二年八月から昭和六〇年六月まで、乙山一夫に対し、サラリーローン営業の目的で、日宝ラッキービル三階の事務所を賃貸していたこと、(五) 昭和五三年七月一日発行の電話帳には、「日新クレジット(金融)、<略>、A、B三-二〇」との記載があり、右電話番号は、甲第三九号証に記載された太郎の電話番号と一致すること、(六) 昭和五二年三月ころ、「大阪市B一ないし四丁目」を、かっこ書きで、「A」と記載する文献などもあることが認められ、これらの事実を総合すると、甲第三九号証の金銭借用証書に、「大阪市M区B三丁目二〇番地の三 日宝ラッキービル三階」ではなく、「大阪市M区A三-二十-三 日宝ラッキービル三F」と記載されていることをもって、右書証の記載内容自体が不自然であって、信用性がないとまでいえない。

5  また、原告本人尋問の結果中には、(一) 本件消費貸借契約二において、被告からは、印鑑登録証明書をもらったが(甲二七)、太郎からは、印鑑登録証明書をもらっていない、(二) 太郎の住所は、住民票を取って確かめていない、(三) 太郎は、外国人なので、住民票が取れなかった、などと供述する部分があるが、右各供述部分をもってしても、甲第一、第二、第三九、第四〇号証の成立についての反証とすることはできない。

6  そして、本件全証拠によるも、甲第一、第二、第三九、第四〇号証の成立について、他に反証となる証拠はない。

7  以上のとおりであって、甲第一、第二、第三九、第四〇号証は、いずれも真正に成立したものと推定することができ、右推定を覆す反証はなく、右各証拠によれば、争点1及び争点5についての原告の主張事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  争点2及び争点6(消滅時効の抗弁1)について

1  証拠(甲一、三九)によれば、(一) 本件消費貸借契約一においては、(1) 支払は、本店に送金を原則とし、昭和五三年六月より自由返済として、毎月二三日までに利息分以上を支払うよう努力し、昭和五六年五月二三日までに支払いするよう努力する(甲一、二項)、(2) 残金が、上記二項のとおりに、支払いできなくなる場合には、その残金の支払日を猶予し、書替えによる延長又は自動的に延長して、上記より五か年後を支払日として支払うよう努力し、なおかつ支払いできなくなる場合は、さらにその後五か年間に限り支払を猶予し延長した期限が、最終弁済期限に自動的になることを貸主並びに借主・連帯債務者及び連帯保証人は承認する(甲一、三項)、(3) 借主・連帯債務者は、貸主に対して、上記三項の支払猶予期限中といえども、特約として上記債権の内支払金として一か月分の利息相当金分以上を毎月支払うよう努力する(甲一、四項)、と定められ、また、(二) 本件消費貸借契約二においては、(1) 支払は、本店に送金を原則とし、昭和五三年四月より自由返済として、毎月二四日までに利息分以上を支払うよう努力し、まず、第一目標として、昭和五三年四月二四日までに支払いするよう努力する(甲三九、二項)、(2) 残金が、右記二項のとおりに、支払いできなくなる場合には、その残金の支払日を猶予し、書替えによる延長又は自動的に延長して、右記より五か年後を第二目標支払日として支払うよう努力し、なおかつ支払いできなくなる場合は、さらにその後五か年間に限り支払を猶予し延長した期限が、弁済期限に自動的になることを貸主並びに借主と連帯債務者及び連帯保証人は承認する(甲三九、三項、以下、甲第一号証三項及び甲第三九号証三項の特約を、あわせて「本件三項の特約」という。)、(3) 借主は、貸主に対して、右記三項の支払猶予期限中といえども、特約として右記債権の内支払金として一か月分の利息相当金分以上を毎月支払うよう努力する(甲三九、四項)、と定められていることを認めることができる。

2(一)  民法一四六条は、時効の利益を事前に放棄することを禁止しており、右規定の趣旨に照らせば、時効期間の延長や中断事由の排斥などを事前に合意することも許されないと解することができる。

(二)  しかし、右1で認定した事実によれば、本件消費貸借契約一及び本件消費貸借契約二における本件三項の特約は、弁済方法や弁済期猶予などを定めた合意であって、本件消費貸借契約一における昭和五六年五月二三日あるいはその五年後である昭和六一年五月二三日、本件消費貸借契約二における昭和五三年四月二四日あるいはその五年後である昭和五八年四月二四日は、いずれも法律上の弁済期を定めたのではなく、弁済する目標期限を定めたにすぎないと認めることが相当である。

(三)  そうすると、本件三項の特約は、民法一四六条あるいはその趣旨によって無効であるとまで認めることはできない。

3  よって、争点2及び争点6についての被告の主張は、いずれも理由がない。

三  争点3(消滅時効の予備的抗弁2)について

1  証拠(甲一)によれば、本件消費貸借契約一においては、前記二1で認定した各条項のほか、(一) 貸主は、借主・連帯債務者が、四項の支払を二か月分以上遅滞した時は、配達証明付内容証明郵便で催告し、送達日より二〇日以内に一か月分以上の利息相当金分の内支払金を支払わない時は、第三項の契約にもかかわらず、特約として送達日より三〇日後を最終期限に短縮して、貸主は、借主・連帯債務者及び連帯保証人に対し、残金全額の強い催告ができることを当事者は承認する(甲一、五項、以下「本件五項の特約」という。)、(二) 債務者が、四項の支払を、五か月分以上遅滞した時は、債権者は、支払命令の申立て又は、訴訟を提起することができ、その時は、自動延長した三項の最終弁済期限は、申立て又は提訴日まで短縮することを特約し債権者と債務者及び連帯保証人は承認する(甲一、六項、以下「本件六項の特約」という。)、と定められていることを認めることができる。

2(一)  右1で認定した事実によれば、本件消費貸借契約一における本件五項の特約及び本件六項の特約は、いずれも債務者にとっての期限の利益喪失を定めた合意であり、本件五項の特約は、債務者の遅滞に加えて、債権者の配達証明付内容証明郵便による催告によって、また、本件六項の特約は、債務者の遅滞に加えて、債権者の支払命令の申立てあるいは訴えの提起によって、初めて期限の利益が失われるとするものであると認めることができる。

(二)  被告は、昭和五六年五月二三日から、五か月分の利息相当金の支払を遅滞したので、本件消費貸借契約一による貸金債権は、同年一〇月二四日から消滅時効が進行する旨主張するところ、本件消費貸借契約一における本件五項の特約及び六項の特約は、右2で認定したとおりであって、本件においては、被告の主張する時点において原告からの催告や支払命令の申立てなどがあったことを認めることはできない。

3  そうすると、昭和五六年一〇月二四日から消滅時効が進行するとの争点3についての被告の主張は、理由がない。

四  争点4(和解の精算条項による債権債務の消滅)について

1  日本百貨通信販売は、被告との間で、平成元年四月三日、徳島簡易裁判所で、本件裁判上の和解をしたことは、当事者間に争いがない。

2  右1の争いのない事実及び<証拠略>によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告が代表取締役である日本百貨通信販売は、平成元年初めころ、徳島簡易裁判所に、被告に対する訴えを提起した。右訴えは、日本百貨通信販売が、被告に対し、昭和五三年三月二四日、一〇〇万円を貸し渡したことを請求の原因とし、八八万円及びこれに対する昭和五三年三月二五日から昭和六〇年四月三〇日まで年一割五分の割合による、同年五月一日から支払済みまで年三割の割合による金員の支払を求めたものである。

(二) 前項の訴訟について、原告は、日本百貨通信販売の代表者として裁判所に出頭し、日本百貨通信販売は、被告との間で、平成元年四月三日、徳島簡易裁判所で、次の内容の裁判上の和解をした(本件裁判上の和解)。

(1) 被告は、日本百貨通信販売に対し、借受金債務として三〇万円の支払義務があることを認める。

(2) 被告は、日本百貨通信販売に対し、平成六年四月三日限り、前項の金員を支払う。

(3) 日本百貨通信販売は、その余の請求を放棄する。

(4) 日本百貨通信販売と被告は、当事者間に、本日現在、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認する。

(5) 訴訟費用は各自の負担とする。

(三) 日本百貨通信販売は、被告及び被告の勤務先に対し、平成七年一月ころ、本件裁判上の和解に基づき給与の差押えをする旨予告した督促状を送付した。被告は、原告と電話で連絡を取り、その後、被告と原告が代表者である日本百貨通信販売との間で、本件裁判上の和解による三〇万円を、毎月二万円あて一五回に分割して支払う旨の合意が成立した。

(四) 被告は、日本百貨通信販売に対し、前項の合意に基づき、平成七年三月から平成八年五月まで、毎月末日ころ、二万円あて、送金して支払った。日本百貨通信販売は、被告に対し、領収証を送付したが、領収証には、原告個人貸付分との記載があるもの(乙七の一、二)がある。また、被告は、このころ、原告名義の入金伝票(乙七の三)及び支払を原告口座とするメモ(乙六)の送付を受けた。

(五) 日本百貨通信販売は、昭和三九年一二月七日に設立された、資本の額を九六〇〇万円、目的を金融業、貸付の保証並びに斡旋などとする株式会社であって、原告は、その代表取締役である。

(六) 本件裁判上の和解にかかる訴えは、日本百貨通信販売を原告とするものであり、その連帯借用証書(甲四)、領収証(甲五)には、あて先として「日本百貨通信販売株式会社御中」との記載がある。また、本件消費貸借契約一及び本件消費貸借契約二の金銭借用証書(甲一、三九)、領収証書(甲二、四〇)には、あて先として、「日本百貨通信飯売株式会社内杉山治夫殿」との記載がある。

右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  本件裁判上の和解には、右2(二)(4)のとおり、日本百貨通信販売と被告は、当事者間に、本日現在、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務のないことを相互に確認するとの条項(以下「本件精算条項」という。)があるので、本件消費貸借契約一及び本件消費貸借契約二による債権債務が、本件精算条項によって消滅したと認められるか否かについて検討する。

本件裁判上の和解の当事者は、日本百貨通信販売と被告であり、本件精算条項は、当事者間に債権債務のないことを確認するものであるから、本件裁判上の和解によって精算された債権債務は、特段の事情のない限り、日本百貨通信販売と被告との間の債権債務であると解すべきである。

右2で認定したとおり、(一) 日本百貨通信販売は、原告を代表者とする会社であり、(二) 本件裁判上の和解は、原告が、日本百貨通信販売の代表者として出頭して、成立したことが認められ、また、右2(三)及び(五)のとおり、(三) 日本百貨通信販売と原告との間で、入金処理や証書の表示に混乱を生じさせるような事実が認められるが、右認定事実をもってしても、日本百貨通信販売と原告との間に同一性があるとまで認めることはできず、これに加え、被告本人尋問の結果中には、本件裁判上の和解の当時、他に一〇〇〇万円の借用証があると知っていたら、和解はしなかった旨の供述部分があるところ、和解条項の解釈は当事者の意思を基礎とするものであることをも勘案すると、本件においては、右特段の事情があると認めることはできない。

そして、他に、本件消費貸借契約一及び本件消費貸借突約二による債権債務が、本件精算条項によって消滅したと認めるに足りる証拠はない。

4  よって、争点4についての被告の主張は、理由がない。

五  そして、他に原告の請求を排斥する主張立証はない。

第四  結論

以上のとおりであって、原告の請求はいずれも理由がある。よって、訴訟費用の負担について民訴法六一条を適用して(なお、仮執行の宣言は、付さない。)、主文のとおり判決する。

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